大学院生活での成果  畑 美咲子

2019年03月27日

畑 美咲子

2015年4月 博士課程前期入学

2016年4月 休学し、青年海外協力隊として訓練を行い、ザンビア共和国に派遣

2018年7月 日本に帰国し、復学

2019年3月博士課程前期修了

修士論文タイトル:ザンビア共和国の基礎計算能力の獲得における言語的影響に関する研究

内容:数学科における言語的影響に着目し、初等教育のカリキュラムによる教授言語の変更がどのように基礎計算能力の獲得に影響したのかについて明らかにする。

 

私の将来の夢は教師になることでした。しかし、学部の経験だけでは、生徒に幅広く様々なことを教えるための知識と経験が足りず、説得力がないと考えていました。生徒に教えられるだけの「経験」を得るために大学院へ通うことにしました。大学院で「経験」を得ることができるとはイメージできないかもしれませんが、広島大学にはザンビア特別教育プログラムがあり、入学後半年~1年後に、ザンビアに理数科教師として赴任し、協力隊経験を二年積み、帰国後半年~1年かけて修士論文を執筆するという、まさに私の希望するプログラムがあったのです。

そして、広島大学大学院国際協力研究科の説明会に参加した際に日下部先生のことを知り、数回のコンタクトと面談を行い、日下部研究室に入ることに決めました。入学後すぐに準備が始まり、研究内容を形成していきました。ザンビアでは72の現地語があり、学校では英語と現地語が使用されています。ザンビアの生徒の理数科学力と読解力の低さは言語の影響が背景にあるのではないかと感じたことが動機で、自身の研究タイトルを決定しました。

修士課程前期1年目は、出来るだけ多く授業をとり、教育開発や国際協力に関する基礎的な知識を学びました。学部は英文科だったので、国際協力について新しく学ぶことばかりでしたが、院生仲間のほとんどは同じような境遇だったので、お互いに助け合いながら学ぶことが多かったです。授業では、英語の授業、プレゼンやリーディングアサインメントが多かったため、ほとんどの時間を予習やプレゼン準備に時間を費やしていました。広島大学と国際協力機構(JICA)が連携して活動を行なっているザンビア特別教育プログラムですが、当然、採用試験に合格しないと派遣はされません。そのため、授業と平行して青年海外協力隊の応募、面接等の対策を行なっていました。後期では授業と先行研究を主に行なっていました。先生と相談しながら、研究計画を立て、質問紙調査の作成を行いました。

 

ザンビア派遣期間中は、私は理科教師として、中等学校に派遣され、高校1年生と2年生に生物を教えていました。また、活動と平行して、放課後や休日に近くの小学校の児童に算数を教えていました。配属先の学校の同僚や小学校の授業をモニタリングしたり、ザンビアでの生活と活動をしたりするなど、フィールドワークを行ったことでザンビアの教育の実情を知りました。その中でも特に私の研究を形作るきっかけとなった出来事が、小学生に算数を教えていた時にありました。小学校2学年の男の子に数字を提示したとき、彼は英語で解答したのですが、他の言語との混同が見られました。学校では、英語を使用しながら教えていますが、英語で教えることは適切なのか、また、教育段階のうち、どの時期から英語を混ぜるべきであるのか、という疑問から、「英語交じりの現地語による教育の実態」という、現在の研究に結びつきました。

帰国後は、まずは、現地で調査したデータをまとめ、分析を行いました。まとめ方については、先輩方の論文を参考にしています。

論文では、英語交じり現地語による教育の効果について、4年生と5年生の比較を行いました。フィールドでは、教師の発言を録音、記録していったのですが、5年生になると急激に英語の割合が多くなっていきます。では学業成績は、英語ができた子のほうが良いのかといえば、実はそうではなく、「両方の言語をよく理解できる生徒」が最も成績がいいことが明らかになりました。むろんこのことは、当然といえば当然なのですが、そうした子は少数派で、ほとんどの子が、英語か現地語の得手不得手が、どちらかに偏っていたのです。つまり、言語的歪みの中で教育がなされている状況を明らかにできたことが修論の成果といえました。

修士論文の完成にあたって、日下部先生をはじめ、同研究科の多くの先生方にご教授いただきました。日下部先生は「大学院では僕が君を教えるのではなく、君が僕を教えるのだ」ということで、先生ご自身が、私の研究の最初の聞き手、読み手として、質問をなげかけます。それは時に多くの修正が必要になる非常に手厳しいものでした。ザンビアではJICAの専門家や調整員の方々、配属先の先生や調査対象校の先生に大変お世話になり、ご協力いただきました。そして、同研究室の先輩方には研究の仕方を指導いただき、研究相談にのっていただきました。研究としてまとめることには苦戦しましたが、IDECには仲間がたくさんいて、相談に乗ってくれましたし、あらゆることが、広島大学IDECでなければ獲得しえない、また何物にも代えがたい「経験」でした。ただ、就職は教師ではなく、企業に行くことになったのですが(笑)。

今後も、この経験を糧に、いろいろなことを問い続けながら社会に貢献できる人間になりたいと思います。

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