博士論文の執筆から研究を仕事にするまで 曹蕾

2022年06月07日

私は、2022年度に日下部研究室の博士後期課程を卒業した曹蕾と申します。東アジア、特に中国の高等職業教育における応用型人材育成の変容を中心に研究していました。日下部先生の下で勉強し始めた2015年から2022年の今日まで、日下部研究室で過ごした7年間は、今までの人生の中で最も印象深く、実りの多いものでした。そこで、博士課程の学生としての経験を紹介したいと思います。

   私は、2015年4月から研究生として所属し、上記テーマを学びはじめました。入ったばかりのとき、私はアカデミックな文章など書いたことがない、少し日本語ができる留学生、ほんとうにただの女の子でしたが、将来大学の教員として活躍してみたい、というキャリアへの憧れをもっており、研究者になるための専門性や研究力を高めたいということで、博士後期への進学を決めました。博士課程へ進学希望を日下部先生に伝えたところ、先生は私の考えを尊重しながら、プレドクトラルなステップとしての修士課程における研究計画を立ててくださいました(例えば、修士課程の早い段階で学会への参加や専門誌への投稿など)。そのおかげで、私は修士課程の2年間で博士課程に進学するための準備をしっかりと整えることができました。

 博士後期課程に入ってからは、日下部先生から徹底的に鍛えられました。というのも、先述した「ただの女の子」を研究者にしなければならないからです。日本の大学で教壇に立ちたいという無謀な夢を日下部先生はまともに受け止めてくれて、日本語で博論を書く手ほどきをしてくださいました。一言一句に目を通し、できていなければ容赦なく注意されました。指導においても、先生が指摘されたことを鵜呑みにしていたら、「議論を磨かなければならないのだから、自説を守るべくディフェンスをしなさい」と何度も言われ、ディフェンスしたらしたで容赦なく論破されました。それを繰り返した経験が、学会発表や博論の試験の際に役立ったと思います。

 私はこの修行で積極的に翼を広げました。しかし、人生は計画通りには進まないもので、論文の不採択も何度も味わいました。博士課程を全うするには相応の能力が必要で、精神や感情に相当な負荷のかかるものですが、日頃から私の心や気持ちを聞いて、なんとか頑張ろうという力をくださる日下部先生に感謝しています。そのため、不採択で挫折しても、勇気を出して再度行動に移すことができました。また、ゼミのメンバーにも感謝しています。みんなで研究内容を議論し、未解決の問題を発見できるよう助け合うことで、精神的なストレスがかなり軽減されました。

 ただ、博論を書いたからといって研究者としての就職があるわけではありません。日本の厳しい研究者としての就職状況は何度も聞かされていました。しかし日下部先生から、研究者としての就職のための手ほどきも受けました。やはり、博論と並行して、相応の業績を積まなければならず、計画的に書いていきました。特に最近では、日本語ばかりで論文を書いていても、良い大学への就職は決まりません。できれば、オープン・アクセスの国際誌に、定められた期間内に掲載を決めておきたい、と指導されました。私は、研究ができる大学への就職に挑戦したいと思っていたので、米国のSAGE社から出ている“Industry and Higher Education”に投稿をし、何度かMajor revisionを経て、掲載が決定しました。IFこそついていませんが、SNIPという分野内のレピュテーションが付いた良いジャーナルでした。これも博士ゼミで徹底的に議論をした成果でした。そうして業績を蓄積し、Jrecinという研究職探索のサイトで公募情報を得て、先生と相談して応募する、ということを繰り返しました。

 修了を控えた2021年12月から翌年にかけては、論文投稿、博論の試験、大学への就職活動が重なり、相当な重圧と多忙さでした。しかしついに、応募していた東北大学から面接に呼んでいただきました。その結果を待ちつつ、博論の最終試験を受けました。最終試験は、副査の先生方の指摘を受けながらもなんとかクリアし、その直後、内定の連絡を受け、2022年4月から助教として働けることになりました。採用の報を聞いた瞬間は、日下部先生とともに、涙を流して喜びました。「ただの女子」が研究者になった瞬間でした。先生は「指導教員を超える研究者をだすのがうちの研究室のダイナミズムだ」と、ほうぼうで私のことを自慢してくださいました。とても嬉しかったです。

 現在、私は東北大学大学院教育学研究科で、グローバル共生教育論について教鞭をとっています。中国のトップレベル大学である清華大学との連携プログラムを実施したり、学会開催の準備をしたりと研究者としての日々を楽しんでいます。また、新しい論文を執筆しつつ、院生時代はどこか遠い存在であった科研費への挑戦もしました。現在は、こうした環境で研究ができることを本当に幸福だと思っています。

 日下部先生の研究室では、水準の高い指導を受けられるため、現在いる博士課程4名のうち、学振研究員2名、創発的次世代研究者育成プログラム2名が採用されており、私自身も、在学途中で国費留学生にしてもらえるなど、多くの院生が研究奨励金、リサーチグラントを獲得しています。

 研究を通じて世界に貢献したいという夢を持つ方々は、ぜひ日下部研究室を訪れてみてください!