果報は寝て待て、寝ている間も学び続けろ
大庭フランシス光瑠
1. はじめに
広島大学日下部研究室を今年度卒業した大庭フランシス光瑠です。韋駄天のように過ぎ去った修士課程2年間を振り返り、自身の成長を整理するとともに、この記事を読んでくださっている皆様、特に大学院進学を検討している方の参考になれば幸いです。修士課程は、修士論文執筆という目標達成だけでなく、研究者としての土台を築く貴重な機会でした。特に日下部研究室では、自主研究会などを通して、教科書には載っていない「生の学び」を数多く経験しました。
2. 自ら考え、行動する力
私は、修士課程に入る前の学部3年生のときから、CICEインターンとして日下部研究室に出入りしていました。そこで先輩の三舛さん(現教材開発会社勤務)、林田さん(現JETRO勤務)や、太田さん(現JICAソロモン調整員)らと知り合い、楽しい日々を過ごさせてもらいました。今でも、先生や同僚たちとそのときのエピソードを語り合うと、「吐いた」とか「脱いだ」とか、「飛び込んだ」とかいう、どうしょうもないエピソードが多いのですが、早朝に行う読書会や研究会、ワークショップの主催など、大学院生・研究者として最も重要な、「自ら課題を見つけ、仲間と切磋琢磨し、常に考え続ける」という姿勢については、自然に、かつ厳しく実践されていました。私もそうした中にあってその重要性を痛感しました。
日下部先生や先輩方は、学部卒業直後の未熟な私を「若手研究者」として迎え入れ、主体的な研究活動を促してくれました。その結果、教えを乞う受動的な関係を超え、互いに影響を与え合い、テーマを深めていくことができました。
3. 研究は日常生活に潜む
私の研究は、ゼミや授業、論文執筆だけにとどまりませんでした。通学時間も、友人との会話中も、布団に入ってからも、食事中も、日常生活のあらゆる場面で研究と結びつけることで、まさに「研究を主軸とした生活」を実現しました。この経験から、「非意図的な日常生活がいかに住民の政治文化的志向性に影響を与えているのか」という研究テーマに辿り着き、インドネシアをフィールドとした研究を志すようになりました。
面白かったのは、先生、院生有志、研究員で別府へいき、温泉につかっていたときのこと、「塾や企業が行うエデュ・ビジネスは、顧客に対して明るい未来という想像を喚起している」というトピックが話題に上り、話が進むにつれて、先生が「どうも科研費とれそうだな」といい、その場で「申請する」といい始め、本当に獲ってしまったことがありました。先生は、ずっと研究のことを考えていて、机に向かうのは考えがまとまったときのみだそうです。また、自分の所属する分野の論文だけではなく、理系の世界的に有名な英文論文も読まれ、その枠組みやマインドセットを参考にしているそうです。そうした環境にいるからか、私も常に研究のことを考える癖がついてしまいました。
4. 果報は寝て待て
研究テーマの絞り込みには時間がかかり、不安に押しつぶされることもありました。しかし、研究会や日常会話の中で常に自分と向き合い続けた結果、興味の糸が一本の線へと繋がり、日下部先生との議論を通して、研究関心を研ぎ澄ませることができました。
学振研究員の申請書作成の指導を受けているときは、何日もかけて2行しかできていないときもあり、そのときは「明後日までに〇ページまでやらないとな」と言われ、それでも進みませんでした。しかし先生はそのことを指摘するのではなく、「まあ、サラッと書けても面白くないしな」といい、わずかに進んだ文章では何を言いたかったのかに焦点を当て、「自分の中に書きたいことがあったが、表現が拙かった」ところを深堀りし、それ以降書くための指針を示してくださいました。自分でみてもわかりにくい作図をして持っていくと、先生は一瞥して「こりゃひどい」といって、大笑いしたら自分もつられて笑い出し、あとで泣いたこともありました。自身の考え方が熟すまで待ってもらえることは大変ありがたく、実力はともかく、自分の研究に対する姿勢を信頼してもらえているのだから、努力しないと、というモチベーションにつながった気がします。また、比較教育学をやっている研究室ですから、私のテーマも教育学に寄せていくことを当初は模索していました。しかし、「うーん、無理に寄せるよりも、これはこのままで面白いから、申請する分野のほうを変えてしまおう」と、地域研究の分野に申請することにしました。そうすると審査委員も変わりますから、思い切った判断でしたが、あまりそこは重要な点ではないらしく、先生は「そもそもこの手の申請は、社会科学における異分野の研究者が読んでも十分に理解できる内容を書かないと通らないんだよ」とおっしゃり、句読点の位置に至るまで徹底的に指導を受け、晴れて、学振研究員DC1の内定をいただくことができました。
ただ、、、その後、みんなでお好み焼き屋に行ったら、「あ、そうだ、フランシス、学振通ったんだよね、、、ごちそうさまでした!!」、「(みんな)ごちそうさまでした!(笑)」「いやまだ給料もらってませんから!(焦)」というくだりを何度もやられるという、まさに“お好み焼き屋での鉄板ネタ”が誕生してしまいましたが、そうやっていじられるのもまたうれしいものです。
これから研究を志す皆さんに伝えたいのは、「無駄に焦る必要はない」ということです。文字としてアウトプットできなくても、考え続けることでインプットは蓄積されます。寝ていても、温泉につかっていても、脳みそのどこかで自分の研究テーマが更新され続けていて、それが日常に潜む関連事象を引き寄せるフックとなってくれます。私の場合、その状態ができたこと、そしてそれをアウトプットできるようにすべく、日下部先生が、私の中にあるアイデアを引き出してくださり、かつ忍耐強いサポートをしてくださることにより、カメのようなペースでも着実に成長し、日本学術振興会特別研究員DC1の内定を勝ち取り、修士論文の提出を達成することができました。春からは特別研究員および博士後期課程の学生として、さらに学界と社会に貢献できる研究を続けてまいります。「自制・自律・自尊」をキーワードに励んでまいりますのでこれからも引き続きよろしくお願いします。