修論を書き終えて 三舛暁人
【本文】
2023年3月に日下部研究室を修了しました三舛暁人(みますあきと)です。今回は卒業にあたって、大学院での3年間の学びを振り返りたいと思います。
私は2つのきっかけをもとに、本学の国際教育開発プログラムを志望しました。1つ目は私自身の生い立ち。私は母親が香港出身で、いわゆる外国につながる子どもであり、そうした背景から同じように外国につながる子どもや多文化共生の教育課題に関心を持ったということ。そして2つ目は幼い頃に友人を亡くしたこと。そこから、心に傷を負った子どもの教育支援に関心を持ちました。
初めて日下部先生にお会いしたのは、学部3年生の頃でした。自分は、上記の課題に関するパッション(情熱)は持っていても、具体的な道の歩み方に迷っていました。そのとき、当時の担当教員と先輩が日下部先生を紹介してくださり、具体的にお話を伺いにいくことができました。その際、日下部先生が「三舛くんのやりたいことをしなさい。人生を捧げたいと思う“熱”を見つけなさい。そのお手伝いはできます。」と、まるで両親のように、私の漠然としたパッションを後押ししてくれたことを覚えています。日下部先生のところではなにか見つけられるかもしれない、と思い、また明確な目標とはいえませんが、何か学びながら社会の役に立てることができるのではないかと、日下部先生のもとで大学院に進むことを決心しました。
1年目:「新鮮」と「葛藤」
まず、大学院での学びは私にとって全てが「新鮮」なものでした。学生の大半が留学生であり、講義や課題も英語であること。伝えたいことがあっても、自分の想いや意見を伝えることができない不甲斐なさは何度も感じました。同時に、日本の文化や教育のあり方について当たり前と感じていたことに対して、より批判的な考え方をもち、当たり前を改めて問い直すようにもなりました。そして、新型コロナウイルスの拡大の影響を大きく受けた1年でもありました。「トビタテ!留学JAPAN」プログラムに採用していただき、1年目の8月にスペイン・バルセロナに渡航する予定でしたが、渡航制限を受け、行先の見えないものとなってしまいました。一方で、コロナという外的な影響に甘え、将来の明確なビジョンを持たずに、目の前のやるべきことを懸命にこなし、現実逃避を行っていたところもありました。そうした状況に、嫌気が差し、「本当にやるべきことは何なのか」と日々葛藤していました。日下部先生は常に、「まあなんとかなる。必ずいけるよ、スペイン」と励ましてくれました。
2年目:「焦り」と「実行」
しかし、2年目に入っても新型コロナウイルスは収束せず、行動制限も継続し、ただ卒業まで残る日が短くなり、まともな研究結果も得られない状況に焦る日々でした。しかし、何よりも「人生を捧げたい熱」に巡り合っていないことが心残りであり、1年の延長を決意しました。とはいえ、すぐに海外に渡航はできないため、国際協力系のNGOで長期インターンをしたり、現地調査のための準備を整えたりしました。現地調査に協力していただく受入機関を見つけることは、現地につながりも何もない私にとって、とても困難であり、何度も難民や移民支援団体に履歴書やメールを送り、交渉したことはいい経験となりました。幸いなことに、現地移民支援NPOが快諾してくださり、無事に渡航・調査をすることができることになりました。行き先を探す際にも常に日下部先生が寄り添ってくださり、まともに大きな機関に依頼すると時間がかかるので、どこか小さく、親切な受け入れ先があるはずだ、とアドバイスをくださり、やってみたらその通りになり、戦略をもつことの重要性を知りました。
3年目:「感動」と「感謝」
スペイン・バルセロナに渡航し、実際に現地で難民支援団体や外国につながる子どもや若者と関わると、先行研究やメディアで取り上げられている事実とは異なるような「生の声」を聞くことができ、日下部ゼミで強調されていた比較教育学におけるフィールドワークの魅力を感じました。とにかく現地の人々と同じ生活、関わりを約9か月行い、私の研究テーマである「スペイン・バルセロナの間文化主義的な態度」について、その実態を明らかにできたと思います。周囲と比較すると、それほど大した成果ではないのかもしれませんが、私にとってゼロから計画し、1つの修士論文を書き終えたことは、振り返ってみると感動的なものです。そして、この修士論文は、とにかく自由に、やりたいことに対して常に背中を押し続け、見守っていただいた日下部先生、そして研究室の仲間、スペイン現地の方々、両親のおかげです。修了式では、総代に選んでいただき、入学当時は、苦労していた英語でのスピーチをやり遂げました。さらに、歓送パーティーでは先生自ら書かれた手書きの修了証を渡してくださり、涙が溢れました。
私の3年間は、研究活動はもちろん、内省の繰り返しの日々であったとも思います。「当たり前なことは、本当に当たり前なのか」「今していることは、本当にやりたいことなのか」といった、アカデミックにも、私自身の生き方にしても常に向き合い続けた大学院生活だったと思います。
最後に
大学院を通じて、やりたいことは「教育に関わること」と改めて強く想い、今年度からは教材開発系の民間企業で新たな道を進みます。大学院での学びを生かし、日下部ゼミでのDNAを絶やさず、さらに社会に対して常に新たな価値を生み出し続けることができる人材を目指してまいりたいと思います。
最後に、改めまして常に成長を見守り、背中を押し続け、素敵な経験をさせていただいた日下部先生、辛い時も励まし合い続けた仲間、そして全てを支えてくれた両親に感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
2023年5月7日
三舛暁人